近年、企業や店舗において「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が深刻な問題となっています。従来の「お客様は神様」という概念から脱却し、従業員の尊厳と健全な職場環境を守ることが、企業の持続的な発展にとって不可欠となっています。
株式会社ARKSでは、カスハラ・パワハラ・セクハラなどハラスメント対策にネームプレート型カメラTAG-RECO(タグレコ)を提供しており、導入することでクレームやハラスメントを自動録画し、従業員を守ることができます。
本記事では、カスハラの基本的な定義から、企業が知っておくべき法的知識、そして効果的な対策方法まで、専門的な視点から詳しく解説します。
1. カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義と現状
1.1 カスハラとは何か
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客が従業員に対して行う社会通念上不相当な言動による嫌がらせ行為のことです。単なるクレームや苦情とは明確に区別される概念で、従業員の尊厳を傷つけ、職場環境を悪化させる深刻な問題となっています。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策マニュアル」では、カスハラを以下の3つの要素をすべて満たすものとして定義しています:
- 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと
- 当該クレーム・言動の要求内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであること
- 当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
1.2 カスハラの具体例と判断基準
カスハラに該当する行為は多岐にわたります:
行為の種類 | 具体例 |
---|---|
理不尽な要求や暴言 | 机を叩いて怒鳴りつける、商品の無料提供を要求する、土下座を要求する |
長時間にわたる拘束 | 6時間に及ぶ長電話、真夏の炎天下での長時間説教 |
人格否定や侮辱 | 「死ね」「馬鹿」などの暴言、大声で怒鳴る |
暴力行為 | 従業員の首元を掴む、体当たり・頭突きをする、殴りかかる |
SNS等での誹謗中傷 | 「SNSにあげる、口コミで悪く評価する」といった脅し |
正当なクレームとカスハラの判断には2つの基準を用います。まず「要求内容の妥当性」で自社に過失があるか確認し、次に「手段・態様の相当性」で、たとえ要求内容に妥当性があっても、手段・態様が社会通念上不当な場合はカスハラに該当すると判断します。
1.3 カスハラ増加の背景
UAゼンセン流通部門による調査では、業務中に来店客からの迷惑行為に遭遇した労働者が46.8%に上っており、この問題の深刻さが数字で示されています。
出典:「第3回カスタマーハラスメント対策アンケート調査結果」(2024年速報値)|UAゼンセン
URL: https://uazensen.jp/wp-content/uploads/2024/06/6.5記者レク資料.pdf
なお、過去の調査では70%台という数値も報告されており、依然として多くの従業員がカスハラ被害に遭遇している現状が確認されています。増加の背景には、SNSの普及による顧客側の発言力増大や、ハラスメントを強く問題視する近年の潮流があります。
2. 企業が負う法的義務と放置リスク
2.1 企業の法的義務
企業は、労働契約法第5条に基づき、従業員の生命・身体の安全を確保し、健康に働けるよう必要な配慮をする義務を負っています。これは物理的な安全だけでなく、精神的な健康も含む包括的な義務です。
また、パワハラ防止指針では、カスハラを「顧客等からの著しい迷惑行為」と位置づけ、以下の取り組みが求められています:
- 相談対応体制の整備:相談窓口を定め、従業員に周知し、適切に対応する
- 被害者への配慮:メンタルヘルス不調への相談対応、従業員一人で対応させない
- 被害防止のための取り組み:カスハラ対応マニュアルの作成や研修の実施
2.2 カスハラ放置のリスク
カスハラを放置することで企業が直面するリスクは深刻です:
- 従業員のメンタルヘルス悪化と離職率の増加
- 企業のレピュテーション悪化と社会的信用の低下
- 生産性の低下による業績への悪影響
- 法的責任の発生:安全配慮義務違反による損害賠償請求や労災認定のリスク
これらのリスクを回避するためには、企業が主体的にカスハラ対策に取り組むことが不可欠です。
3. カスハラ対策の具体的な実施方法
3.1 基本方針の明確化とマニュアル策定
組織のトップが、迷惑行為は許さないこと、不当な要求は毅然と断ること、従業員を徹底して守ることを明確にメッセージとして発信することが重要です。
カスハラ対応マニュアルには以下の項目を含めることが推奨されます: – 自社における迷惑行為の事例と対応例 – 記録方法(メモ、録音など) – 社内の相談先と連携体制 – 現場対応の手順とエスカレーションフロー
3.2 従業員教育と研修
全ての従業員が適切に対応できるよう、以下の内容を含む研修を定期的に実施します: – カスハラの定義と具体例 – 判断基準とパターン別の対処法 – 苦情対応の基本的な流れ – 記録の作成方法
弁護士による企業内研修も有効で、法的な観点からの専門的な知識を従業員に提供することができます。
3.3 相談窓口とメンタルヘルスケア
カスハラ被害を受けた従業員が安心して相談できる窓口を設置し、産業医や臨床心理士などの専門家と連携した適切なケアを行うことが重要です。
また、「お客様第一主義」に偏りすぎていないかを見直し、無理な要求は断る姿勢を顧客に意識させることが、カスハラ予防につながります。
4. カスハラ発生時の対応と法的責任
4.1 対応フローと記録化
カスハラが発生した際の基本的な対応フロー:
- 責任者への情報共有と引き継ぎ:一人で対応せず、連絡フローに従って対応
- 顧客の主張の聴取と記録化:矛盾した言動に振り回されないよう記録を作成
- 現場対応か持ち帰りかの判断:深刻な場合は本社と連携して対応
- 会社としての対応方針決定:顧問弁護士のアドバイスも参考に方針決定
- 従業員のケア:精神的ダメージを受けた従業員への適切なケア
- マニュアルの見直し:経験した事例から学び、体制を強化
正確な記録の作成と保管が極めて重要で、ネームプレート型カメラなどの録画機器を活用することで、客観的な証拠を残すことが可能になります。
4.2 カスハラ行為者の法的責任
カスハラを行った顧客は、不法行為に基づく損害賠償責任(民法第709条)を負う可能性があります。また、行為の内容によっては以下の犯罪が成立する可能性があります:
犯罪類型 | 具体例 |
---|---|
暴行罪・傷害罪 | 従業員に対する暴力行為 |
脅迫罪・強要罪 | 土下座の強要など |
威力業務妨害罪 | 業務の正常な運営を妨害する行為 |
不退去罪 | 退去要求に応じず居座り続ける行為 |
自社での対応が難しい場合は、弁護士に相談・依頼することで、従業員の疲弊を防ぎ、問題の早期解決を図ることができます。
5. まとめ:持続可能な企業運営のために
カスタマーハラスメントは、企業にとって従業員の安全と健全な職場環境を脅かす深刻な問題です。従来の「お客様は神様」という概念から脱却し、法的知識の習得と社内教育を両輪として継続的に実施していくことが不可欠です。
株式会社ARKSが提供するTAG-RECO(タグレコ)のようなネームプレート型カメラなどの技術的な対策と併せて、以下の取り組みを継続することが重要です:
- 経営トップの明確な方針表明と従業員への周知
- 包括的なカスハラ対応マニュアルの策定と定期的な見直し
- 全従業員を対象とした定期的な研修の実施
- 相談窓口の設置と適切なメンタルヘルスケア体制の構築
- 記録化の徹底と客観的な証拠の保全
- 法的専門家との連携による適切な対応
適切な対策を講じることで、従業員を守り、企業の持続的な成長を実現することができます。カスハラ対策は一時的な取り組みではなく、企業文化として根づかせることが成功の鍵となります。
現代の企業経営において、従業員の尊厳と安全を守ることは、企業の社会的責任であり、同時に競争優位の源泉でもあります。今こそ、カスハラ対策に真摯に取り組み、健全で持続可能な企業運営を目指していきましょう。