「カスハラ放置」が企業を潰す?経営者が知るべきリスクとブランド毀損を防ぐ対策

「カスハラ放置」が企業を潰す?経営者が知るべきリスクとブランド毀損を防ぐ対策

「カスハラ放置」が企業を潰す?経営者が知るべきリスクとブランド毀損を防ぐ対策

「お客様は神様」という認識は、もはや時代遅れとなりました。従業員に対するカスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻な社会問題となる中、その対応は企業にとって避けられない経営課題です。しかし現実には、従業員からの報告を軽視したり、安易な対応で済ませる企業が後を絶ちません。

2025年6月の労働施策総合推進法改正により、カスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置は全国の事業主の義務となりました(施行日は公布から1年6か月以内の政令日。一部規定は2026年4月1日)。また、東京都では「カスタマー・ハラスメント防止条例」が2025年4月1日に施行されており、企業の対応は法的要請となっています。

カスハラを放置することは、従業員の離職や生産性低下を招くだけでなく、安全配慮義務違反として法的責任を問われるリスクがあります。さらに、SNSでの拡散により企業ブランドが一夜にして毀損される可能性もあるのです。株式会社ARKSでは、ハラスメント対策の重要性を経営者の皆様にお伝えするとともに、実効性のある対策を提案しています。

本稿では、カスハラ放置が企業にもたらす深刻なリスクを明らかにし、ブランド毀損を未然に防ぐための具体的な対策を経営者の視点から解説します。

カスハラとは何か?正当なクレームとの違い

カスハラとは、顧客や取引先からのクレーム等のうち、要求の妥当性に照らして手段・態様が社会通念上不当で、その結果として従業員等の就業環境が害されるものを指します。重要なのは、正当なクレームの表明は含まれないという点です。つまり、商品やサービスに対する合理的な改善要求や苦情は、カスハラには該当しません。

問題となるのは、長時間の拘束、威圧的な言動、暴言、土下座の強要、SNSでの誹謗中傷といった、要求を実現するための手段が社会通念を超えている場合です。消費者庁は、消費者向けの普及・啓発活動を通じて、適切なクレームとカスハラの境界について周知を図っています。

企業は、この定義を社内で明確に共有し、従業員が「どこからがカスハラなのか」を判断できる基準を持つことが重要です。曖昧なままでは、従業員は過度な我慢を強いられ、心身の健康を損なうリスクが高まります。

出典:カスタマーハラスメント防止のための消費者向け普及・啓発活動|消費者庁

経営者が認識すべき「カスハラ放置」の深刻なリスク

カスハラを放置すると、企業には取り返しのつかない損失が生じます。従業員の健康被害、法的責任、ブランド毀損、そして組織崩壊のリスクが連鎖的に発生するためです。これらは単なる人事問題ではなく、企業の存続を脅かす経営リスクとして認識すべきでしょう。

従業員の心身の健康と生産性の低下

カスハラによる最も直接的な影響は、従業員の心身への深刻なダメージです。理不尽なクレームや暴言に繰り返しさらされることで、メンタルヘルス不調(PTSDやうつ病など)を発症するリスクが高まります。実際、カスハラ被害を受けた従業員の多くが、不眠や食欲不振、意欲低下といった症状を訴えています。

こうした状況は離職や休職の増加につながり、採用コストの増大と人材流出という二重の打撃を企業に与えます。さらに、残った従業員のモチベーションも著しく低下し、業務効率の悪化や顧客サービスの質の低下を招くのです。優秀な人材ほど「守られていない職場」から離れていく傾向があり、長期的な競争力の喪失につながります。

「安全配慮義務違反」による法的責任と賠償リスク

企業には、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務が課されています。これは、従業員の生命や身体の安全を確保するための措置を講じる義務です。カスハラから従業員を守るための適切な措置を怠った場合、企業は安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性があります。

厚生労働省が2022年に公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラの予防(ルール・体制整備)と発生時対応(エスカレーション・被害者ケア)の基本枠組みが示されています。企業には、事前の防止策と発生後の迅速な対応の両面が求められており、これを怠ることは経営上の重大なリスクとなります。

被害を受けた従業員から損害賠償請求を受けるリスクも無視できません。訴訟対応には多大な時間とコストがかかるだけでなく、企業の評判にも深刻な影響を及ぼします。一次予防(方針・教育・運用)で未然防止を図ることが、経営合理性に優れたアプローチといえるでしょう。

出典:「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」等を作成しました!|厚生労働省

SNSでの拡散による「ブランド毀損」

現代において最も恐れるべきリスクの一つが、SNSでの情報拡散によるブランド毀損です。カスハラ被害を受けた従業員が、企業の不適切な対応をSNSで告発するケースが増加しています。一度投稿された情報は瞬く間に拡散され、削除することは実質的に不可能となります。

SNS拡散による就業環境の侵害や社会的評価の低下は、業務妨害や名誉毀損に発展する可能性もあります。企業としては、証拠保全(録音・録画・ログ保全)と広報連携をマニュアルに明記し、事態の拡大を防ぐ体制を整えることが不可欠です。

「従業員を守らない企業」というイメージが定着すれば、既存顧客の離反だけでなく、新規顧客獲得や優秀な人材の採用にも悪影響が及びます。企業が長年かけて築き上げたブランド価値が、一つの事件で失墜する時代になったのです。特に、Z世代を含む若年層は企業の社会的責任を重視する傾向が強く、ブランドイメージの悪化は将来の顧客基盤を失うことを意味します。

企業文化の悪化と組織ガバナンスの崩壊

カスハラを放置する企業風土は、従業員の信頼を根底から損ない、組織の士気を著しく低下させます。「会社は自分たちを守ってくれない」という認識が広がれば、従業員の企業への帰属意識は薄れ、チームワークや協力体制が崩壊していきます。

こうした状況では、建設的な意見交換や改善提案が生まれにくくなり、イノベーションの停滞を招きます。また、管理職が問題を隠蔽しようとする傾向が強まり、組織ガバナンスが機能不全に陥るリスクも高まるのです。結果として、企業は市場での競争力を失い、衰退の道を辿ることになります。

✓ ポイント:カスハラ放置は単なる従業員個人の問題ではなく、企業経営の根幹を揺るがす重大なリスクです。健康被害、法的責任、ブランド毀損、組織崩壊という四つのリスクが相互に連鎖し、企業価値を急速に低下させる可能性があることを経営者は深く認識する必要があります。

出典:令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について|厚生労働省

ブランド毀損を防ぐための具体的な対策

効果的なカスハラ対策には、経営トップのコミットメントと全社的な取り組みが不可欠です。単なる対応マニュアルの整備だけでなく、企業文化の変革と具体的な実行体制の構築が求められます。以下、経営者が実施すべき五つの重要な対策を解説します。

経営トップによる明確な方針表明

カスハラ対策の第一歩は、経営トップが「カスハラを絶対に許容しない」という強いメッセージを発信することです。社内外に対して明確な姿勢を示すことで、従業員は安心して働くことができ、顧客に対しても適切な行動を促すことができます。

地域動向として、東京都は「カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行し、事業主に対して具体的な対策を求めています。一方、大阪府は条例ではなく、中小企業向けのカスハラ対策促進事業(講習会・ツール整備)を展開しています。全国的には、労働施策総合推進法の改正により、カスハラ防止措置が事業主の義務となったことで、対策の必要性は一層高まっています。

経営者自らが先頭に立って方針を示すことで、組織全体の意識改革が進み、実効性のある対策が可能になります。方針は単なる宣言に終わらせず、具体的な行動計画と結びつけることが重要です。

出典:東京都カスタマー・ハラスメント防止条例|東京都

全社的な対応マニュアルの策定

実務レベルでの対応力を高めるには、正当なクレームとカスハラを区別する明確な基準を設けることが必要です。感情的な判断ではなく、客観的な基準に基づいて対応できる体制を整えることで、現場の混乱を防ぎます。

対応マニュアルには以下の要素を含めるべきでしょう。

  • 初期対応の手順(傾聴、事実確認、冷静な対応)
  • エスカレーションの基準とフロー(上司への報告、専門部署への引き継ぎ)
  • 証拠保全の方法(通話録音、メール保存、目撃者の確保)
  • 悪質な場合の対応(警告、取引停止、法的措置の検討)

マニュアルは定期的に見直し、実際の事例をもとに改善を重ねることが重要です。また、証拠保全システムの導入も有効な手段となります。例えば、株式会社ARKSが提供するネームプレート型カメラ「TAG-RECO(タグレコ)」のような自動録画システムは、客観的な証拠を確保する手段の一例です。ただし、導入時には録音・録画の周知、目的限定、保存期間などのプライバシー配慮を徹底する必要があります。

出典:中小企業カスタマーハラスメント対策促進事業|大阪府

従業員を守るための相談・サポート体制の構築

カスハラ被害を訴えやすい相談窓口の設置は、問題の早期発見と解決に不可欠です。プライバシーに配慮した体制を整備し、相談したことで不利益を被らないことを明確にすることで、従業員は安心して相談できます。

相談窓口は、人事部門だけでなく、外部の専門機関(弁護士、カウンセラー)とも連携することが望ましいでしょう。被害従業員に対しては、精神的ケア(カウンセリングの提供)や法的手続きの支援(弁護士相談、訴訟支援)を行い、組織として従業員を守る姿勢を示すことが重要です。

社内研修の実施

どれだけ優れたマニュアルや相談窓口を整備しても、従業員がそれを知らなければ意味がありません。定期的な社内研修を通じて、カスハラの定義、対応方法、相談窓口について周知徹底することが必要です。

効果的な研修には、座学だけでなくロールプレイングを取り入れ、実践的な対応スキルを習得させることが重要です。「こんな場合はどう対応するか」という具体的なシナリオを用いた訓練により、実際の場面で冷静に対応できる力が身につきます。また、管理職向けには、部下からの相談への対応方法や、問題のエスカレーション判断基準についての研修も実施すべきでしょう。

毅然とした態度での対応と法的措置

カスハラ行為に対しては、毅然とした態度で中止を申し入れる勇気が経営者には求められます。「顧客を失うことを恐れて何もしない」という姿勢は、従業員の信頼を失い、より大きな損失を招きます。

悪質なカスハラには、警察や弁護士と連携して法的措置を講じることを躊躇してはいけません。重大事案では、威力業務妨害(刑法234条)、脅迫(同222条)、名誉毀損(同230条)等の適用可能性があります。社内マニュアルに「刑事対応の閾値」と通報フローを明示することで、現場の判断を支援できます。

毅然とした対応が他の顧客への抑止力にもなり、カスハラ被害が減少する効果が期待できます。法的措置は最終手段ですが、その選択肢を持つことが、従業員を守る企業の姿勢を示すことになるのです。

✓ ポイント:カスハラ対策は、方針表明、マニュアル整備、サポート体制、研修、法的対応という五つの要素が有機的に結びついて初めて効果を発揮します。経営者は、これらを個別の施策としてではなく、統合された防衛システムとして構築し、継続的に改善していく姿勢が求められます。

出典:刑法|e-Gov法令検索

成功事例から学ぶ「カスハラ対策」

先進的な企業では、既に実効性のあるカスハラ対策を導入し、成果を上げています。ある大手小売チェーンでは、カスハラ対策プロジェクトを立ち上げ、明確な対応基準とエスカレーションフローを確立しました。その結果、従業員満足度が20ポイント上昇し、離職率も前年比で30%減少しています。

また、別の企業では、カスハラ対応専門チームを設置し、現場従業員が一定のラインを超えたクレームに対しては即座に専門チームに引き継げる体制を構築しました。この取り組みにより、現場の心理的負担が大幅に軽減され、顧客対応の質も向上したといいます。

さらに、証拠保全システムの導入により、不当なクレームに対して客観的な事実を提示できるようになった企業もあります。録画・録音データの存在を顧客に伝えるだけで、不適切な行動が抑制される効果も確認されており、予防策としても有効です。

これらの成功事例に共通するのは、経営トップが本気でコミットし、全社を巻き込んで取り組んだという点です。カスハラ対策は一部署の仕事ではなく、経営課題として全社で取り組むべき重要事項なのです。

まとめ:ブランドを守るための経営者のあるべき姿勢

カスハラ対策は、短期的なコストではなく、長期的な企業価値向上への投資です。従業員の安全と健康を守ることが、ひいては企業のブランドを守り、持続的な成長を実現する基盤となります。

「お客様は神様」という発想から脱却し、「従業員も顧客も尊重される健全な関係」を構築することこそが、現代の企業に求められる姿勢でしょう。株式会社ARKSでは、ネームプレート型カメラ「TAG-RECO(タグレコ)」を通じて、企業の実効性あるハラスメント対策を支援しています。導入時には、録音・録画の周知、目的限定、保存期間などのプライバシー配慮を徹底し、従業員と顧客双方の権利を尊重した運用が重要です。

経営者自身がカスハラ問題に真摯に向き合い、組織全体を巻き込むリーダーシップを発揮することで、従業員が安心して働ける環境が実現します。それは結果として、顧客満足度の向上、優秀な人材の確保、そして強固なブランド構築につながるのです。

今こそ、カスハラ対策を経営の最優先課題として位置づけ、行動を起こす時です。

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